宮島達男|クロニクル 1995-2020 がめちゃくちゃ良かった。(感想・レビュー)
千葉市美術館で開催されている 宮島達男|クロニクル 1995-2020 に行ってきました!
宮島達男さんの作品に初めて出会ったのは瀬戸内海の直島。
それ以来好きなアーティストのひとりです。
最新作も見られるということでわくわくでした。
レビュー・感想を書いていきます!
《Floating Time》 (2000)
1Fのさや堂ホールで実施されているインスタレーション。ここはチケットがなくても自由に入場ができます。床に投影された数字はカウントのスピードが早く、流れるように消えていきます。
会場を入ると、まずはこの作品。
《Counter Skin on Faces》 (2019)
写真引用元:美術手帖
現代を照射する多様なカウントダウン。「宮島達男|クロニクル1995-2020」が千葉市美術館で開幕|美術手帖 (bijutsutecho.com)
3人の女性の顔にそれぞれ白・黒・赤でデジタル数字がペイントされ、9から1まで切り替わっていきます。静かなその空間では女性たちの肌の質感や表情や息遣いがまじまじと感じられます。生きることのシンプルな力強さ・温かさを感じる作品です。
女性たちの異なる宗教や白・赤・黒という配色から宗教・人種間の対話をテーマにした作品と言われています。
《Counter Voice in Wine》 (2000)
写真引用元:美術手帖
現代を照射する多様なカウントダウン。「宮島達男|クロニクル1995-2020」が千葉市美術館で開幕|美術手帖 (bijutsutecho.com)
スペイン・イギリス・フランスの3人がそれぞれの言語で9からカウントダウンし、ゼロで赤ワインの入ったボウルに顔をつけるというもの。
3面のスクリーンがトリプティク(三連祭壇画)に見えることやワインがキリストの血に例えられることから、宗教的要素の高い作品と言われています。
ボウルに顔をつけて呼吸を止めること(=死)と呼吸を始めて時を刻んでいくこと(=生)によって生と死が繰り返されます。
Counter Skinの厳かな雰囲気とは変わってこちらはコミカルな印象でした。
着ている白シャツが赤ワインでぶどう色になっていくところなど全力でやっている凄まじさを感じます。カウントダウンする人たちも途中苦しそうで、そのシュールな図も面白かったです。
《Counter Voice inChinese Ink》 (2018)
写真引用元:美術手帖
現代を照射する多様なカウントダウン。「宮島達男|クロニクル1995-2020」が千葉市美術館で開幕|美術手帖 (bijutsutecho.com)
こちらは先ほどのワインを墨汁に変えたバージョン。カウントを行うのは宮島達男本人です。竹林の中で墨汁に顔をつけます。中国でのパフォーマンスということで墨汁をチョイスしたそうです。カウントも力強く言ったり歌うように言ったり、ゆっくり言ったり、墨汁をはさむごとに人格がリセットされているような表現でした。途中でボウルに墨汁が追加されるのが面白かったです。
《Counter Skin(colors)All-Rain-#01》 (2017)
写真引用元:美術手帖
現代を照射する多様なカウントダウン。「宮島達男|クロニクル1995-2020」が千葉市美術館で開幕|美術手帖 (bijutsutecho.com)
ヨーロッパ・アフリカ・アジア系の人たちの腹部にデジタル数字をペイントしたアート。
白・黒・黄色といった人種を表す色を肌の色と異なる配色にすることで差別や偏見についてを問うた作品だそうです。その写真はなんだかモードな印象で、堂々としていて、「綺麗でしょう?」と問いかけてくるような感じがしました。
《Counter Skin》シリーズ
写真引用元:美術手帖
現代を照射する多様なカウントダウン。「宮島達男|クロニクル1995-2020」が千葉市美術館で開幕|美術手帖 (bijutsutecho.com)
歴史的に重要な場所において、人々の手足・顔などにボディペイントした様子を撮影したもの。 撮影場所は韓国のイムジンガク(北朝鮮との軍事境界線付近)、ドイツのレックリングハウゼン、天売、広島、沖縄など。
歴史の中で多くの人を失ったり破壊がされた土地だけれど、その地にも人々が命を紡いでいる。そんな儚さと力強い再生を感じました。
《Counter Window No.3》《Counter Window No.5》 (2003)
外につながる窓がデジタルカウンターになっている作品。景色が数字に切り取られ、変わっていきます。美術館というと窓のない展示室で作品を見るのが一般的ですが、これは窓の外に見える街を借景にして外と内をつないだ作品。発想が面白いです。街にも生命があって年を取っていくようです。
《Deathclock for participation》 (2005-2018)
パソコンに自分が死ぬ日を入力して写真を撮ると、スクリーンに死までのカウントダウンが表示される。(私は2085年7月13日にしてみました。)
デスノートに出てくる死神の目みたい。普段自分の寿命なんて気にしないで生きているけど、こうしてどんどん数字が減っているのを見ていると、何でもないような今も時間を生きているんだなと思います。
《Over Economy by YEN 50,000》 (2013)
縦に五枚並んだ一万円札が塗りつぶされデジタル数字が描かれている作品です。
普段紙幣の価値を疑うことはないけれど、あるときふと価値が変わってしまうのではないか。そんなことを考えさせられる作品です。インフレ・デフレという貨幣価値の変動を表現しているのかなと思いました。
《Counter Painting on KIMONO OBI-Red》
着物の帯の上にデジタル数字がペイントされた作品。伝統衣装にペイントされたことで近未来的なものに生まれ変わったように感じました。
グリニッジ標準時が定められた1884年を「世界に時間が生まれた年」として、その前後に製作された衣服が選ばれているそう。
《C.T.C.S Flower Dance no.4》 (2017)
C.T.C.Sとは(Changing Time with Changing Self)を意味します。
9枚のミラーの中に赤くて小さいデジタル数字が散りばめられ、カウントしている作品。ミラーは微妙に角度が変えられていてそれぞれが違う場所を映しています。
空気中に漂う生命が見えるようになったような、異世界に迷い込んだような。ずっと見ていたくなるような不思議な作品です。
《Life(le corps sans organs)-no.3》 (2013)
哲学者ジル・ドゥールズと精神分析家フェリックス・ガタリが提唱した『生命(器官なき身体)』がタイトルとなっているそうです。
大小さまざまなカウンターがコードで繋がれている様子はニューロンを彷彿とさせます。
一か所が動いたと思ったらまた違う場所が動き始め、消えてはまたどこかが動き始める。いままでの、それぞれのユニットが独自のリズムを刻んでいるのではなく、他のLEDに誘発されて時を刻みだすところが面白かったです。
《Time Train to Auschwitz-no.3》 (2008)
ドイツのフライシュマン社の鉄道模型の中に小さいLEDカウンター設置されています。まるで乗客として乗っているみたい。青い光がカウントを続ける様子はまさに鉄道に乗る人々の息遣いのよう。
《C.F.plateaux-no.7》 (2007)
極小のLEDカウンターが細いワイヤーで繋がっています。
C.Fは「Counter Fragile」(壊れやすい)の意。「Plateaux」はドゥールズとガタリの「千のプラトー」に由来するそうです。
崩れたようなかたちで構築されたワイヤーは、現在の不安定な社会を表現しているようです。
《Diamond in You No.17》 (2010)
紙をくしゃっとしたような形の鏡にLEDカウンターが散りばめられています。モチーフは「金剛智」(ダイアモンドが金剛石という)だそうです。
鏡面は様々な角度から世界を反射し輝きを放っています。
《Unstable Time C no.1》 (2020)写真引用元:美術手帖
現代を照射する多様なカウントダウン。「宮島達男|クロニクル1995-2020」が千葉市美術館で開幕|美術手帖 (bijutsutecho.com)
本展が初公開となる最新シリーズ。大きな一枚の布が壁から垂れ下がっており、そこに円形につながれたオレンジのLEDカウンターが明滅しています。「時間の始まり」についての考察が着想の起源だそうです。かろうじて繋がっている、かろうじて光っている、かろうじて壁にかかっている。そんな様子はまさに“unstable”。LEDの優しい光はろうそくの火のような揺らぎを感じさせます。
先がどうなるか分からない不安定な世界でも人の輝きを絶やさないようにというメッセージが込められているのかもしれません。
《HITEN-no.11》 (2020)
写真引用元:美術手帖
現代を照射する多様なカウントダウン。「宮島達男|クロニクル1995-2020」が千葉市美術館で開幕|美術手帖 (bijutsutecho.com)
円形に並んだ棚に大きさがまばらなデジタルカウンターがのっています。LEDの色はパステル系でピンク・紫・オレンジ・黄緑などの混色が使われています。
飛天とは仏の周りを飛び礼賛する天神のこと。中国の敦煌にある仏教遺跡、莫高窟で見た宗教画がモチーフだそうです。これらのカウンターが飛天だとしたら、とても現代的な飛天さまだなあと思いました。
《地の天》(1996)写真引用元:美術手帖
現代を照射する多様なカウントダウン。「宮島達男|クロニクル1995-2020」が千葉市美術館で開幕|美術手帖 (bijutsutecho.com)
本展示会のラスト!一番感動したのがこの作品です!
大きな桶状のステージの中に青色のデジタルカウンターが散らばり、数字をカウントしています。タイトル通りプラネタリウムを逆から見ているようでした。とっても幻想的!
本作は千葉市美術館で開催された開館記念式典「tranquility-静謐」で発表されました。恩師への追悼の意が込められた作品ということもあり、土の中に煌めく生命や星空を感じさせる作品です。
まとめ
とても充実の内容でした!
映像作品から大型展示まで幅広く宮島達男ワールドを味わえてとても面白かったです!
なにより地の天が圧巻でした。新作も素晴らしかったなー!
人の生や死、人種、宗教、社会不安など一見重たいテーマのものも、軽やかにそして現代的に表現しているのが魅力だなあと思いました。デジタルカウンターという一見無機質な材料を使ってこんなにも温かみのある作品を作るなんて素晴らしすぎます。
今後の活動も楽しみです!
STARS展の宮島達男作品についてもレビューを書いています。
ぜひ読んでみてください!